入れ歯と老化と健康寿命(オーラルフレイル)
投稿日:2018年8月15日
カテゴリ:入れ歯コラム
食物をかみ砕き(咀嚼)飲み下す(嚥下)機能の低下は老化と関係
進む人口の高齢化
私たちは、今、かつて経験したことのない速さで進む人口の高齢化によって、いろいろな問題を抱えています。誰でも高齢になれば、老化による日常生活を送ることが若いころより困難になり、病気にもかかりやすくなります。そんな中で、多くの方が望んでいることは、高齢になっても健康で毎日の生活を送りたいということでしょう。
健康長寿と歯科医療
「できるだけ要介護状態にはなりたくない」、という意見はいろいろな場面でよく耳にします。健康で長生きをしたいけれど、そのための歯科医療とは何をしたら良いのか、パソコンやスマホをちょっと開くだけで、あらゆる情報があふれています。「でも、インターネットを調べれば調べるほど何を信じて良いかわからなくなる」と嘆く方も少なくありません。
そうした中で、日本歯科医師会が「健康長寿社会に寄与する歯科医療・口腔保険のエビデンス 2015」を発表しました。近年出された学術論文を、歯科大学教授を中心にして科学的な根拠をもって検討した結果がまとめられています。そこで、ここでは、その他の大学での研究も含めて、健康長寿と歯科医療について、いくつかの観点からまとめてみます。
- ・要介護になるリスクを減らすために、歯科の分野でどのようなことが可能なのでしょうか?
- ・「噛めること」は老化に関連しているのでしょうか?
日本人の死亡原因・要介護になる原因
日本人の死亡原因
今の日本で、死亡原因は、厚労省から発表された「平成28年(2016)人口動態統計(確定数)」によると、男女合わせた統計で、以下のようになっています。
- 1位「悪性新生物(ガン)」
- 2位「心疾患(心臓)」
- 3位「肺炎」
- 4位「脳血管疾患」
- 5位「老衰」
要介護になる原因
要介護になる原因は、平成29年に内閣府がまとめた「高齢者の姿と取り巻く環境の現状と動向」によると、以下のようになっています。
- 1位「脳血管疾患(脳卒中)」17.2%
- 2位「認知症」16.4%
- 3位「高齢による衰弱」13.9%
- 4位「骨折・転倒」12.2%
- 5位「関節疾患」11%
要介護になる原因に歯科医療が関わっている
歯を失うことで、食物をかみ砕くことが難しくなってきます。論文から、歯を失うと、野菜や果物類を中心とした食品がとりにくくなり、抗酸化作用をもつビタミン類を中心とした栄養素が少なくなるという報告があります。
健康長寿のために、噛めること、笑えること
口腔機能(咀嚼・嚥下)が低下することは、認知症や全身的な疾患・生活機能と密接に関連しています。それだけでなく、歯が無いために、外出を控えることから、気分が落ちこむこともあります(=オーラルフレイル)。つまり、健康長寿のために、噛めること笑えること、口腔状況を良好に保つことが大事です。
歯の数と生命予後(寿命)
歯の数は多い方が良い
日本だけでなく、米国、スウェーデン、デンマーク、中国の研究でも歯の数が少ないグループの死亡は歯が多いグループに比べて1.1~2.7倍になったという報告がありました。最近の日本人の平均寿命の延びは、残っている歯の数の延びとも関連があるとも言われています。歯を失うと、噛むことや飲み下す機能が低下しますが、それが死因につながるのは二つのパターンがあります。
- 1. 歯を失う原因となる歯周病や歯科の感染が、全身の病気を引き起こすことが死因につながる場合
- 2. 歯を失って噛めなくなり、低栄養になることが死因につながること
歯を失って、義歯を使わないと死亡率が上がる
自分の歯が揃っていることが理想ですが、いろいろな事情ですでに歯を失ってしまっている方もいらっしゃいます。歯を失ってしまった場合、義歯を使って噛める状態である人の方が良いとの研究結果がでています。ドイツで、残っている歯が20本以下の1800人を10年間追跡調査をした研究では、9歯以上の歯を失って義歯を使わない人は、義歯を使用している人よりも、全死亡率は1.4倍、循環器による死亡率は1.9倍になったとの報告がされました。
■ 他の記事を読む■