次々に歯が抜けて笑えなくなった(50代女性)
「とにかく母に笑ってもらいたい」(娘さん)
治療前
治療後
当院を受診されたきっかけは?
萩原歯科医院のホームページで、重症の患者さんが、きれいに治っている治療例の写真を見て、私のようなひどい状態でも何とかなるのではないかと思ったからです。
娘も心配して今日も一緒に相談に来てくれました。(娘さんが初診相談に同席「とにかく母に笑ってもらいたい」との訴えあり)
25年前、歯科医院でひどく叱られたこと、説明もなく乱暴に歯を抜かれたこと、治療中の仮歯が無かったことなど、嫌なことばかりで歯科治療が怖くなり、行けなくなってしまいました。25年間、歯科医院には行っていません。2~3年前から次々と歯が抜けてきて、上の前歯も抜けて、笑えなくなってしまいました。
患者さんの希望は?
- 歯が抜けてしまって、笑えないので、きれいにして笑えるようになりたい
- 噛めない状況なので、しっかりと噛めるようになりたい
- 入れ歯は嫌ではないが、笑ったとき、ゆるんだりしない入れ歯にしたい
- すぐにダメになりそうな歯は抜いて、しっかりしたきれいな入れ歯にしたい
現状の診断
上顎に8本、下顎に11本の歯が残っていましたが、多くの歯が重症の歯周病で、歯の周りの骨がなくなり、今にも抜けそうなぐらいにぐらぐら状態でした。
今まで正しい歯周病治療と、徹底した歯磨きの指導を受ける機会がなかったことが原因と思われました。
治療の方針
明らかに残せない上顎4本、下顎7本は抜歯をして義歯治療が必要です。その一方で、残る歯も歯周病にかかっていて骨がなくなってきているため、歯周病治療を行って、できるだけ残っている歯を長く持たせるようにします。歯周病を止めて歯を残すには、患者さん自身による歯磨きと正しい定期健診クリーニングが重要です。
一人として同じ歯並びや歯磨きの持ち方の人はいないので、歯磨き指導はマンツーマンで徹底して行い、治療後には正しい定期健診クリーニングに一緒に取り組んでいきます。義歯治療は、歯が無いことがわからないように治療を進めるため、段階を踏んで進めます。
治療の進め方
<第1段階>
今にも抜けそうな歯が多数あるため、本格的な義歯治療の型取りを行うと抜けてしまう恐れがあります。患者さんは抜歯をして義歯が出来るまで歯が無い状態になることを避けたいとの希望がありました。
歯が抜けないような簡易的な型取りをして、抜いた時にすぐに装着できる応急の即日回復義歯を予め準備しておきます。抜歯をしてその場で準備しておいた義歯を装着するので、歯が無い状態を避けることが可能です。ただし、この義歯は、抜歯とその傷が治るまでの審美性確保が第一の目的となる応急の義歯治療です。抜歯の傷の痛みや腫れ、義歯の違和感などもしばらくの間は残ります。
▼抜歯後の傷の治りを待ちながら、調整を繰り返した仮の入れ歯の写真
患者さんはこの仮の義歯でも十分に審美性が改善したと言っていました。次の段階の義歯は、さらに審美性を改善しました(治療後の義歯は、ページ最初の写真)。
<第2段階>
抜歯後の傷が治ったら、丁寧な型取りやかみ合わせを決めること、歯並び確認義歯で歯の見え方や歯の軸が傾いていないか確認調整すること、などのステップを踏んで、機能面と審美面を調整する義歯治療を行います。
義歯装着後、使用していただきながら義歯の調整を行って、安定して使用できるようにします。この義歯は調整が必要な材質で作製するため、細かい調整が可能です。ただし、調整可能な材質のため、薄さの確認などを行いながら長期間使用しているうちに、稀に破折やひび割れが生ずる場合もあります。しかし、もし、ひびなどが生じても修理が可能です。
<第3段階>
第2段階で機能面・審美面の調整を終えた後、壊れにくい精密金属義歯治療に進みます。精密金属義歯に進まずに第2段階までで使用している方もいます。
精密金属義歯のメリットは、壊れにくいこと、金属部分を薄くできるために違和感が少なくなること、温度を伝えやすいので、食事をとった時に熱さ冷たさを感じやすくなることです。
精密金属義歯治療まで進んだ場合、第2段階で調整した義歯は精密金属義歯が何か問題を生じた時のスペア義歯として、ずっと保管していただきます。歯を失ってきた方の不安の一つは、残っている歯がだめになった時や、義歯を無くした時に、代わりの義歯がないことだと、多くの方が訴えます。いざと言うときにスペアの義歯を持つことで安心したという患者さんは少なくありません。
見えにくい金属のバネを選んだ理由
入れ歯のバネの材質や形態には、いくつもの種類があります。金属を使わずに、透明な合成樹脂のバネを使うノンメタルクラスプデンチャーは、最近よく見かける人気の入れ歯です。その他にも、コーヌス義歯やアタッチメント義歯、マグネットを利用した義歯など審美性が高い義歯がいくつもあります。
ノンメタルクラスプデンチャーはじめ、金属のバネを使わない義歯は見た目のストレスを少なくしてくれる義歯ですが、残っている歯がだめになった際に修理の負担が大きくなることなど、いくつかの短所もあります。
この患者さんの場合、残った歯も長期的には抜けてしまいそうな状況で、抜けた時にどうしようという不安な気持ちを持つことは避けたいという希望もあり、患者さんと相談して、もしも抜くことになっても、すぐに修理ができる金属のバネを使うことにしました。
ただし、できるだけ目立たないように工夫を凝らしたバネの義歯治療を行っています。ニコっと笑ったときの写真のように、バネを使っていることがほとんどわかりません。
治療後の状態は?
見た目も満足していただき、長年の夢「笑えるようになった」と喜んでいただきました。「皆に自分の口元を見てもらいたいのに、コロナでマスクをしなければならないのが残念です。」と笑顔で話してくれました。
精密金属義歯治療まで行いましたが、義歯がしっかりとしているため、義歯を入れた方が残した歯がしっかりとおさまるので、なんでもしっかりと噛むことができるとも、喜んでいただきました。