入れ歯治療後のお手入れ
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入れ歯のお手入れ方法を教えてもらったことが無い
入れ歯の相談に訪れる方の中には、今まで一度も入れ歯のお手入れ方法についての説明を受けたことが無いという人が少なくありません。そのため、入れ歯に食べかすがこびりついている状態の方もいらっしゃいます。入れ歯のお手入れの方法を説明すると、「初めて聞きました。入れ歯を作った時に、手入れの方法は全く説明されませんでした」と言うのです。入れ歯は自分の歯のように虫歯になったり、歯周病になったりはしませんが、食事を摂れば自然の歯と同じように食べかすが付き、歯垢や歯石、着色(ステイン)が付きます。清潔にしないでいると、お口の中も不潔になり、歯がある場合は、虫歯や歯周病のためにも良くありません。入れ歯そのものが嫌な臭いの原因となることもあります。「入れ歯洗浄剤はCMで良く見ているから使っているけれど」、と言いながら、実際には使い方を間違えているために、汚れがたくさん残っている義歯もよく目にします。
ご飯を食べた後の食器をそのままにしますか?
入れ歯は、基本的には、ご飯を食べる時の食器と同じようにきれいにしてくださいと説明しています。ご飯を食べ終えた後、食器を洗わずに、そのままにして、次の食事にそれを使う人はいないと思います。入れ歯も同じです。基本的には、食事を終えたら、外して汚れを落とし、自分の歯が残っているなら、歯磨きをし、歯も入れ歯もきれいにして再びお口の中に入れるようにします。汚れたままにすることで、さらに汚れも付きやすくなりますし、細菌も繁殖しやすくなります。口の中を清潔に保つことができないと、口臭を指摘されることがあり、仕事や人間関係にも影響を及ぼすことがあります。入れ歯の場合も、汚れをきちんと落とさないと、嫌な臭いを発することもあり、残っている歯へも悪い影響を与えることもあります。入れ歯は、清潔にすることを日常の習慣にすることが大切です。
毎日のお手入れが、汚れのこびりつきを防ぐ
義歯は、自分の歯ではありませんが、歯と同じように、歯垢が付き、そこに細菌が付着します。そして、それを落とさずに時間が経つとともに、歯垢が歯石となり、固く沈着してなかなか落としにくくなってしまいます。そうした汚れや細菌が義歯の嫌な臭いの原因の一つにもなります。汚れは、付いたらすぐに落とす。毎日丁寧に清潔に保つことが、何より大切になってきます。
私たちが勧める入れ歯お手入れ方法
入れ歯のお手入れ方法は、歯科医師によって、義歯の材質や歯科医師の考え方によって、少しの違いがあるかもしれません。私たちは、義歯をできるだけ良い状態で維持していくために、患者さんに以下の手順でのお手入れ方法をお願いしています。
義歯ブラシで食べかすを落とす
一部のサイトには、入れ歯に付いた食べかすを落とす前に、入れ歯洗浄剤の溶液に入れ歯を漬けて食べかすを柔らかくふやかしてからブラシで落とす、と言う方法を勧めているものもあります。しかし、当院に相談に訪れる患者さんの中で、食べかすがこびりついている入れ歯の患者さんに、今までの入れ歯の洗浄方法を聞いてみると、上のようなやり方の(汚れを落とさずに洗浄剤に漬けている)患者さんが少なくありません。私たちは、まず、入れ歯に付いた食べかすを義歯用ブラシで落とすことを基本に患者さんにお願いしています。入れ歯のお手入れは、お食事の後に、ご自身の歯を磨くことと同じです。食事をしたら、洗剤や歯磨き粉を付けずに、まず、義歯用ブラシで食べかすを丁寧に落とします。
注意① バネに対しては細心の注意を
特に、細かい歯と歯の間や、バネなどの維持装置の周囲の汚れは丁寧に落とします。強く力をかけたり、乱暴にブラシを動かしたりすると、精密に作られたバネなどの部分を変形させてしまうことがあるので、注意が必要です。また、ブラシで汚れを落とす際に義歯を持つ場所も、注意が必要です。義歯の細かい部分、バネなど変形しやすい精密な部分は絶対に持たないことです。総義歯の場合はあまり問題になりませんが、部分義歯の場合、バネを持つと、バネが変形して適合しなくなったり、バネが破損したりしてしまうことがあります。
注意② 歯磨き粉は義歯に細かい傷をつけてしまう
食べかすを落とすとき、あるいは、義歯用ブラシで入れ歯をきれいにするとき、通常の歯磨き粉や石鹸を使用する必要はありません。研磨剤の入っている歯磨き粉を使うことで、義歯の表面に細かい傷がつき、そこを足掛かりに、細菌の繁殖を招く恐れがあるとも言われています。入れ歯用(義歯用)のブラシで丁寧にまんべんなく汚れを落としましょう。
1日に1回は、義歯洗浄剤の溶液に漬ける
どんなに義歯用ブラシできれいに丁寧に汚れを落としても、目に見えない細かい個所の汚れや細菌は完全に落とすことができません。1日に1回は、義歯洗浄剤の液に漬けて、目に見えない、または、ブラシでは届かない部分の義歯の汚れや細菌を落としましょう。夜、義歯を外して寝る方の場合は、寝る時に義歯洗浄剤の液に漬ける方が多いようですが、夜、外さない義歯の場合は、漬ける時間を工夫する必要があります。私たちは、夜、義歯を外さない患者さんへの提案として、お風呂に入る時間を利用して、義歯を洗浄剤の溶液に漬ける方法をお話ししています。漬けた後には、丁寧に洗浄し、お口に装着する前に、十分に流水でよくすすぐことはもちろん大切です。
義歯洗浄剤の溶液は温度、濃度に注意
義歯洗浄剤を溶かす場合、説明書に従った温度や濃度での使用が大切です。とりわけ、温度は注意が必要です。入れ歯の材質によっては、熱いお湯に義歯を漬けることで、義歯の変形が起きることもあります。冷たすぎる水に溶かすと、洗浄剤が溶けにくいこともありますので、良く溶けたことを確認して使いましょう。また、洗浄剤を溶かす水の量も一度きちんと量って、容器に目印の線を漬けておくなどのひと手間をかけると、毎日の洗浄の負担が少なくなります。そして、洗浄の溶液の濃度を、表示されている範囲内でできるだけ濃い溶液にすると、洗浄の力を発揮しやすくなります。例えば、「100~200mlの水に1袋溶かす」と記載があった時は、できるだけ、100mlに近い少なめの量の水で、濃いめの溶液を作ることをお勧めしています。ただ、義歯全体が溶液に浸らなければならないので、できるだけ少なめの溶液で義歯全体が浸るような容器を探していただきます。義歯洗浄剤の種類については、後述しますが、いろいろなものがあり、それぞれの使い方は同じではありません。歯科医師に相談するとともに、ご自身でも義歯洗浄剤の注意書きを良く読んで正しく使いましょう。
入れ歯洗浄剤の種類について
入れ歯洗浄剤は、いろいろなメーカーからいくつもの種類の商品が出ています。それぞれに、落としやすい得意な汚れがありますので、どれを使うのが良いか、歯科医師に相談してみると良いでしょう。義歯に付着する汚れにも、たんぱく質を多く含んだ汚れと、歯石のように固くなっている汚れでは、落とすための溶液が違ってくるため、使い分けることで、より効果を得やすくなってきます。自分の義歯の汚れの状態を見極めてもらって、歯科医師のアドバイスを受けると良いでしょう。
3~6か月ごとに、歯科医院での定期的な健診と義歯の洗浄を行う
歯科医院での定期的なチェックは、早めにトラブルを見つけて対応し、義歯を良い状態で長く使用するためにも大切なケアです。患者さんの歯が1本でも残っている場合には、その歯を維持するためにも定期健診は欠かせません。萩原歯科医院では、定期健診の際、歯の検査とクリーニングの他に、義歯のチェックと超音波洗浄を行っています。残っている歯と共に、義歯そのものも清潔に保っていただくようにしています。
義歯ブラシ
義歯の汚れを取るために、義歯用ブラシがあります。義歯は、複雑な形をしており、凹凸も多く、普通の歯ブラシでは、ブラシの毛先がうまく当たらずに、汚れを落とせないことがあります。いくつかのメーカーから義歯用ブラシは出ていますので、歯科医師に相談されると良いと思いますが、一般的に、歯と歯茎の部分の汚れを落としやすい大きめのブラシと、歯と歯の間や細かい金属の部分の汚れを落としやすい狭い部分用のブラシがついています。義歯用ブラシの使い方も、入れ歯の形によって、動かし方が違ってきます。ご自身の入れ歯にとって、義歯用ブラシをどう動かしたらよいか、歯科医師に聞いてみましょう。
義歯用ブラシの使用上の注意点
ごしごしと力を入れすぎないことが大切です。義歯が削れてしまうこともあります。時には、そのために義歯の適合が悪くなる可能性もあります。バネなどの精密な細かい部分を変形させないようにブラシを当てることも大切です。バネが変形してしまうと、義歯が入らなくなったり、ゆるくなったりします。時に、バネを大きく変形させてしまったりすると、バネが折れてしまうこともあります。バネの部分を持ってブラシを当てないことも、大切です。歯科医師に義歯用ブラシの当て方、力の加減、注意点をご自身の義歯で、聞いてみると安心です。
洗浄中に落として義歯を破損させないために
「義歯が割れた」と言ってあわてて来る方は、洗っている時に、洗面台の鉢に落として割った、という方がほとんどです。これは、ほんの少しの工夫で防ぐことができます。洗う時に、洗面器かボウルのような容器に水を張っておくことです。こうしておけば、手が滑って義歯を落としても、直接洗面台の鉢に落とすよりも割れる可能性をぐっと少なくすることができます。こうしたほんの少しの手間が、義歯のトラブルを少なくすることに役立ちますので、取り入れてみてください。
義歯の着色について
義歯洗浄前
義歯洗浄後
自分の歯と同じように、入れ歯も食品やタバコのヤニで着色してしまうことがあります。特に、タバコのヤニは入れ歯に付いてしまうと除去することが困難です。歯科医院で専門的な方法で入れ歯を洗浄することもありますが、着色をきれいに除去するのに長い時間がかかってしまったり、完全には除去できないこともあります。一番望ましいのは、毎日のお手入れを丁寧に行うことで、着色をさせないことです。上に記載したように、丁寧な汚れ除去、毎日1回の入れ歯洗浄剤の溶液へ漬けること、これらを実践することが大切です。
その日の汚れはその日のうちに落とす
入れ歯のお手入れの基本は、その日の汚れは、その日のうちに落とすことです。汚れは、時間が経つと、落としにくくなります。汚れはこびりつかせない。その日の汚れは、その日のうちに落とす。このことが、入れ歯を長く清潔に保たせ、お口のためにも良い環境を整え、嫌な口臭も防ぐために、大切なことです。